高齢者福祉・介護現場におけるノーマライゼーションとは?厚生労働省の8つの原理
介護に携わる人であれば馴染み深い言葉である「ノーマライゼーション」。
近年では、福祉分野においても重要な発想として世界中に広がっています。
今回は、ノーマライゼーションの概念や8つの原理、高齢者福祉や介護現場における考え方を紹介します。
ノーマライゼーションとは?
ノーマライゼーションとは、障がいの有無に関わらずすべての人が平等な権利を持ち、共生できる社会を目指す考え方です。
1950年代、デンマークのバンク・ミケルセンがその概念を提唱したのが始まりといわれています。
当時は、知的障がい者の施設隔離が当然のように行われていた時代でした。彼は、障がいにより差別的な扱いを受ける・人間らしい生活を送ることができない、という現実に疑問を抱き、声をあげました。
そのとき、ノーマライゼーションという言葉が誕生しました。
その後、スウェーデンのベンクト・ニィリエが「ノーマライゼーションの8つの原理」を提唱したことが、よりノーマライゼーションを世界に広め、人々の理解を深めるきっかけになりました。
当初は知的障がい者を中心とした考え方でしたが、いまでは障がいだけでなく性別、年齢、人種などを不平等の理由とせず、すべての人が社会的な尊厳や権利を守り生活できる社会を目指すための指針となっています。
厚生労働省が提唱する8つの原理
日本では1980年代にノーマライゼーションの概念が広まりました。
ベンクト・ニィリエが提唱した8つの原理をもとに、障がい福祉に限らず、高齢者や介護を含めた社会福祉全体においてさまざまな取り組みを推進しています。
ここからは、厚生労働省が推進するノーマライゼーションの基本理念を紹介します。
ノーマライゼーションの定義
ノーマライゼーションとは人権そのものであり、
社会的支援を必要としている人々をいわゆるノーマルな人にすることを
目的としているのではなく、その障がいを共に受容することであり、
彼らにノーマルな生活条件を提供すること
ノーマライゼーションの8つの原理
①1日のノーマルなリズム
人間であれば誰もが行う、「朝起きて顔を洗う、朝食をとる、歯磨きをする、身支度をする、学校や職場に行く、夕食をとる、入浴する、布団で就寝する」という当たり前の生活リズムを意識することです。
毎日「今日はどのように過ごそうか」と考えられると、単調な日々から抜け出せます。
明日が楽しみになり、人間らしい生活を守ることにつながります。
②1週間のノーマルなリズム
「平日は学校や仕事に行き、休日は余暇や趣味を自由に楽しむ」といった1週間の過ごし方を守ることです。
週の活動にメリハリをつけることで、より充実感を得ることができます。
③1年のノーマルなリズム
年末年始やクリスマス、誕生日などのイベント事や、長期休暇の旅行といった1年ならではの楽しみを取り入れることです。
移り変わる季節や非日常を感じられる活動を楽しむことで、自分らしく歳を重ねられます。
④ライフサイクルにおけるノーマルな発達的経験
人間が成長する上で大切な、年齢ごとに適した経験のことです。
幼少期:友だちと遊ぶ、家族とかけがえのない時間を過ごす
青年期:異性との付き合いや恋愛、ファッションを楽しむ、スポーツや音楽などに打ち込む
成人期:仕事を通して人の役に立つ、スキルやキャリアを積む
老年期:多くの経験を踏まえてこれまでの人生を振り返りながら、穏やかに過ごす
発達的経験をすることは、後のライフサイクルにも良い影響を及ぼします。
⑤ノーマルな個人の尊厳と自己決定権
自分の生活の場や仕事、趣味などの生き方を自由に決められるよう、個人の希望や意思を尊重し大切にすることです。
また、周囲もそれを尊重しお互いに認め合うことが大切です。
⑥その文化におけるノーマルな両性の形態すなわちセクシャリティと結婚の保障
年齢問わず異性との良い関係を守り、愛し愛される幸せを感じ、結婚をして人生をともにする…その権利や尊厳が保障されることです。異性に限らなくても、人を好きになる経験を阻害してはなりません。
⑦その社会におけるノーマルな経済的水準とそれを得る権利
いつでも一般的な経済的水準が保障され、そのためにそれぞれが社会的責任を果たすことです。
年金や手当などの公的支援を受けることができ、自由に管理できるお金を持っていることは自分らしい暮らしを守るためにも大切です。
⑧その地域におけるノーマルな環境水準
隔離や差別などで社会的に排除されることなく、すべての人が地域の中で自分らしく心地良い生活を送ることです。
ノーマライゼーションの考え方
ノーマライゼーションは、単にすべての人をノーマルに当てはめるのではなく「個々を受け入れた上で、その人にとってのノーマルを守る」考え方といえます。
そもそも何を「普通」と感じるかは人によって違います。しかしその普通が守られるということは、その人が安心して社会や地域で生きていけるということです。
守るべきノーマライゼーションの理念を基準に、すべてにおいて違いを受け入れる、という意識が大切なのです
。
高齢者福祉・介護現場におけるノーマライゼーションの考え方
では、高齢者福祉・介護現場におけるノーマライゼーションの考え方とはどのようなことでしょうか。
高齢になり介護などの支援が必要になると、心身ともに思うようにいかないことが増えます。
特に常に介護者が付き添っている在宅・施設生活であれば、周りの人や集団のルールに合わせなければならないこともあります。
介護者と要介護者では立場が違うからこそ、必ず価値観や感じ方の相違は出てくるでしょう。
安全面などからすべての希望が叶えられるとは言い切れませんが、それでも、日常生活の支障をハンディキャップと捉えて線引きをするのではなく、一人の人間として向き合い尊重することが非常に重要です。
例えば、病気や障がいなどで身体活動に不自由があったり寝たきりであっても、その上で1日・1週間・1年間を通した理想の生活を尊重すること。その上で、人々が当たり前に経験することや感情の変化、社会的権利や他者との交流を妨げないことが大切です。
その人らしさを考え、大切にすること
「高齢者だから、認知症や障がいがあるから仕方ない」…そういった考え方になっていないかを常に振り返りましょう。
どんな人にもこれまでの人生(バックグラウンド)があり、お互いにその価値観や尊厳、自己決定権は守られるべきです。そのためには、ノーマライゼーションを軸にした関わりが欠かせません。
その人らしさとは何かを常に考え、できるだけそれに沿った支援やケアを提供し、生き方の可能性を引き出すこと…それが高齢者福祉や介護の本質ではないでしょうか。
ノーマライゼーションの推進で互いを尊重できる社会に
自分にとっての「普通」が定着していると、どうしても他人の普通に違和感を抱くこともあります。
しかし大切なのは、他人を自分の普通に合わせようとするのではなく「それぞれの考え方や特徴があって当たり前」と受け入れる気持ちです。
「障がいがある」「高齢である」「病気がある」というのは特別なことではなく、個性のひとつでもあります。
ノーマライゼーションの考え方が広まることで、よりお互いを尊重できる優しい社会が守られるでしょう。
まとめ
いまでは、ノーマライゼーションなくして介護や高齢者福祉は語れないほど、根底に根付いた重要な考え方になっています。
排除したり置きざりにするのではなく、社会や地域で補い合う視点が何より大切です。
当事者にならないとわからないこともありますが、共生する上ではすべての人が支援者でもあるということです。
だからこそ、一人ひとりがノーマライゼーションの意識をこころに留めておきたいですね。