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外国人介護人材の受入れについて

2024.05.08

外国人介護人材の受入れについて

 

 

急速な少子高齢化に伴い、介護の人材確保はまさに喫緊の課題となっています。
その中でも国が力を入れて取り組んでいるのが「外国人介護人材」の受入れです。

今回は、外国人介護人材の受入れのしくみや課題について解説します。

 

外国人介護人材の受入れとは

団塊の世代と呼ばれる人が全員75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」を抱える日本。
そのときの介護従事者必要数は約258万人ともいわれていますが、今なお人材不足は続いています。介護の人材確保とともに、より質の高い介護サービスが求められる時代になりました。
しかし、少子化が加速する日本では国内だけで介護制度を維持するのは難しく、海外の人材の積極的活用が求められています。

そこで現在、国をあげた外国人介護人材の受入れが進められており、自治体(都道府県)や事業者が中心となってさまざまな取り組みを行っています。
コロナでの入国制限により停滞した時期もありましたが、受入れ人数は年々増加傾向にあります。

 

外国人介護人材受入れのしくみとは?4つの制度について

外国人介護人材受入れには、主に「EPA(経済連携協定)」「在留資格「介護」」「技能実習」「特定技能1号」の4つの制度があります。
実習や就労、資格取得等により在留資格が得られますが、それぞれの制度で導入目的や受入れ条件、働き方が異なります。

引用:厚生労働省「外国人介護人材受入れの仕組み」

 

EPA(経済連携協定)

EPA(経済連携協定)は、2008年に始まった国が主体的に行う公的制度です。
「経済連携強化」を目的とし、インドネシア・フィリピン・ベトナムから介護福祉士の候補生を募ります。
厚生労働省によると、2021年度までの受入れ人数は累計6,417人となっています。

EPAでは、就学コースと就労コースのいずれかで学びながら介護福祉士の資格取得を目指します(不合格または未受験の場合は帰国)。
家族の帯同が認められており、合格すれば介護福祉士として日本での永続的な勤務が可能です。

各国の選考基準を満たした人のみが介護福祉士候補者として登録されるため、看護や介護などの医療・福祉の知識や学歴などが豊富でありスキルの高い人材が集まるのが特徴です。
事業者側も長期的な就労を望むからこそ、教育や研修など施設の受け入れ体制を充分に整える必要があります。

 

在留資格「介護」

在留資格「介護」は「専門的・技術的分野の外国人の受入れ」を目的に2017年9月から行われている制度です。
留学生として養成施設で学ぶルートと、実習生として介護施設で経験を積むルートの2種類があります。
こちらも介護福祉士の資格取得が条件で、合格すれば永続的に日本で勤務することができます。

在留資格「介護」の場合は職員採用のための調整機関がないため、紹介や事業所間の連携により就職先を決めるケースがほとんどです。

 

技能実習

技能実習は、2017年11月から始まった「本国への技能移転」を目的とする制度です。
実習という名目の中ではありますが、期間中は介護現場で即戦力として活躍できます。

スキル・能力により最長5年、介護福祉士の資格取得等で特定技能1号に移行すればさらに5年(計10年)の勤務が可能です。
技能実習のみの場合は将来的に帰国して母国の介護福祉事業に従事するため、日本での長期的な活躍が難しいこともあります。

 

特定技能1号

特定技能1号は、2019年4月から始まった最も新しい制度です。
「人手不足対応のための一定の専門性・技能を有する外国人の受入れ」を目的としており、国内での人材確保が困難な分野(介護をはじめ全14分野)の専門性や技術を確保するために制度化されました。

制度上、特定技能は1号と2号に分かれており、在留期間や技能・能力水準が異なります(介護分野は1号のみ)。
介護分野では技能試験(介護技能評価試験)や日本語試験に合格した一定の水準を満たす人が対象です。
就労が目的であるため採用は直接雇用のみです。人員配置基準数に含むことができるので、より現場に即した人材が期待されます。
転職や転籍に制限がなく、都市部に限らず地方でも多くの受入れ実績があります。

入管庁によると、介護分野の特定技能外国人在留者数は31,453人(2024年2月末)であり年々増加しています。人材確保の観点からも関心の高い制度ですが、体制整備(教育や生活支援の費用、家賃補助など)にコストがかかることから、活用に踏み切る事業所が少ないのが現状です。

 

このほか、「地位・身分に基づく在留資格」により外国人介護人材を受入れる場合もあります。
「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」に該当する在留者(結婚などで日本に在住する外国人)が対象で、就労制限が設けられていないのが特徴です。
日本語能力に長けている人であれば、介護従事者としての勤務や資格取得までの道のりは比較的易しいといえます。

以前は介護実習などをメインに留学する外国人が多くいましたが、近年では人材確保の観点から就労目的の制度が充実してきました。
特養や老健、デイサービスなどに勤務しながら、グローバルな視点を強みに介護における活躍の場を広げています。

外国人介護人材受入れの課題と望まれる対策

このように外国人介護人材の制度が充実する一方で、運営における課題も残されています。
ここからは、3つの課題を中心に解説します。

複雑な手続き

外国人介護人材においては制度ごとにさまざまな手続きがあり、かつ複雑であることで尻込みしてしまう人も多いようです。
いかにわかりやすく簡素化できるか、制度を理解してもらえるかが今後の課題といえるでしょう。

厚生労働省では、外国人向けのハンドブックやテキストを発行するなどの取り組みや学習支援を進めています。
外国人が関心を持ちやすく、そして挑戦しやすい制度づくりが期待されます。

外国人介護人材の受入れや育成にかかるコスト

外国人介護人材の受入れや人材育成には長期的なコストがかかるため、費用がなく受入れを断念する事業所が多いのも現状です。
近年では事業所の資金支援を目的に、厚生労働省が管轄する外国人人材採用のための「人材確保等支援助成金」や、都道府県が行う独自の助成制度が広がっています。費用負担を軽減することで、事業所側も余裕を持った人材支援が可能です。

事業所の受入れ体制の確保

介護現場の人材確保には、長期的かつ安定的な支援が望まれます。
いくら人材確保の制度を整えても、離脱者や離職者が増えてしまっては意味がありません。
慢性的な人材不足が続く中で受入れ体制を整える必要がありますが、それは非常に難しいことでもあります。
必要に応じて、国や自治体が率先して現場の負担軽減支援を行うことが大切です。

 

言語や文化、価値観の違いを認め合うことが大切

外国人人材を受け入れるにあたっては、異国だからこそ言語や文化などの壁を感じやすくなります。
当然ながら試験や仕事は日本語ですし、特に医療・福祉業界は専門用語も多く使われます。より対人関係が重視される介護現場では、慣れるまでの戸惑いも大きいでしょう。
ジェスチャーなどの非言語コミュニケーションを交えるなど、初めは工夫が必要かもしれません。

ですが言語や文化の壁はあれど、現場での教育や相互理解でカバーできることも多くあります。むしろ、国が違えば違和感や疑問を感じて当然です。
価値観の違いを理解し合いながら思い込みや偏見を取り除くとともに、職員だけでなく利用者やその家族への理解を得ることが大切です。

また、在留資格の取得にはどの制度も一定の条件があるため、介護経験や看護などの医療系の資格を持つ人がほとんどです。さらに異国でその関門を突破する覚悟や志の高い人材が多いのも事実です。
専門職である以上、国籍を問わずお互いのスキルや技術を高めあえる関係づくりが望まれます。


まとめ

外国人介護人材を受入れている施設のうち、およそ半数以上が介護福祉士の資格取得支援を実施、または検討しています。
一時的ではなく長く活躍できる人材を育てるための取り組みは、少しずつ広がりをみせています。

外国人介護人材の受入れは、介護現場の人材確保とサービスの維持向上に向けて今後もニーズが高まる制度といえるでしょう。

 

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