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認知症における睡眠障害とは?症状や原因、予防法について解説

2024.05.23

認知症における睡眠障害とは?症状や原因、予防法について解説

 

 

厚生労働省によると、2025年の全国の認知症高齢者数はおよそ471万人に上るといわれています。

これだけ身近な病気になっている認知症ですが、その病態を語る上で欠かせないのが睡眠障害です。
睡眠障害は、本人だけでなく介護者の負担も大きいため、対応に悩んでいる人も多いのではないでしょうか。

今回は、認知症における睡眠障害の症状や原因、予防法について解説します。

 

認知症と睡眠の関係性

わたしたちは、年齢によって睡眠時間の長さやリズムが変化しています。

加齢に伴い睡眠時間は短くなり、60歳以上の平均睡眠時間は6時間前後です。
しかし一方で、寝床に入っている時間は7〜9時間というデータもあります。(厚生労働省:e-ヘルスネット「休養・こころの健康」)

高齢者は、死別、退職、生きがいの喪失などによる精神的ストレスが増えます。
外出や社会参加の減少、活動量低下などで昼夜のメリハリがつきにくく、睡眠の質が低下する恐れが高くなるのです。
これらは加齢による自然なことではありますが、ひどくなると日常生活に影響を及ぼし、認知症を発症しやすくなります。

 認知症になると環境の変化を敏感に感じ取るため、睡眠の乱れが生活に大きく影響します。
認知症状として睡眠障害を生じる場合もありますが、生活リズムの乱れによる睡眠障害が認知症を引き起こす可能性も大いにあります。
認知症と睡眠障害は双方が深く影響しあっているといえるでしょう。

 

認知症による睡眠障害でみられる症状

睡眠障害には主に4種類の症状があります。
加齢により生じることもありますが、認知症の場合は生活に支障をきたすなど症状が重くなる傾向にあります。

・中途覚醒:夜中に何度も目が覚める
・早朝覚醒:起床予定の2時間以上前に目が覚め、眠れなくなる
・熟眠障害:寝ているのに熟睡感が得られない
・入眠障害:布団に入っても1時間以上眠れないなど、寝付きが悪い


睡眠に関わることですから、夜間に対応しなければならない介護者にとっても大きな負担になります。

また、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症では、脳の病変により特徴的な症状がみられることがあります。

・アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症の発症には、アミロイドβというタンパク質の蓄積が指摘されています。通常アミロイドβは睡眠中に血液中に排泄され肝臓で解毒されますが、不眠が続くと脳に蓄積されやすくなります。
結果、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌が減少し、体内時計が乱れ、不眠や昼夜逆転、活動量や意欲低下などの症状が現れます。

・レビー小体型認知症
レビー小体型認知症では、レム睡眠行動障害が出現することが多いのが特徴です。
病変がレム睡眠を調節する脳の部位にも影響し、夢を見た状態で体が動く、起き上がる、奇声や大声を出すなどの行動が見られます。


認知症による睡眠障害の原因

では認知症による睡眠障害にはどのような原因があるのか、ここでは代表的な原因をまとめました。

・体内時計の乱れ
体内時計の機能低下が原因で本来の生活周期から逸脱し、不規則な生活になります(概日リズム睡眠障害)。
夜間にまとまって眠れない、日中の過度な眠気などにより生活リズムが崩れ、日中と夜間の区別がつかなくなります。時間の認識ができず、昼夜逆転になるケースも多いです。

・抑うつ
認知症による意欲や活動量の低下により、塞ぎ込みがちになります。
日中に適度な疲れを感じられず、睡眠と覚醒の境界が曖昧になりがちです。

・徘徊
徘徊は主に見当識障害(時間や場所、人への認識が薄れる)によって、時間や場所を勘違いして行動します。
夜間徘徊の場合は不眠になるだけでなく、見守りが難しいため
けがや事故のリスクが高まります。

・幻聴、幻覚、せん妄
主に認知機能低下や不安、薬の副作用などでみられます。
興奮状態になることが多く、夜間では睡眠不足に直結しやすいため注意が必要です。

・身体の痛みや不快感
認知症があると、痛みや不快感をうまく表出しにくくなります。
我慢することで夜間の不眠につながる可能性があるため、いつもと違う様子がないか観察することが大切です。

・不安や恐怖感
認知症の人は不安や恐怖を感じやすいため、安心して入眠できないなど睡眠に支障が生じることがあります。
できるだけ不安を取り除き、孤独にならないような寄り添いや傾聴が大切です。

・排尿障害
夜間頻尿(尿意がないのに何度もトイレに行く)は記憶障害や不安が原因です。睡眠が妨げられ、不眠を助長してしまいます。

認知機能の低下や見当識障害などが原因で生活リズムが崩れ、付随する上記の症状などにより昼夜の区別がつかなくなります。
昼夜逆転から通常の生活リズムに戻すには、介護者にとっても時間や労力が必要です。

睡眠障害の予防法

質の良い睡眠を取るために、睡眠障害はできるだけ早い段階で予防することが大切です。
ここからは、日常生活で心がけて欲しい予防法を解説します。

・目が覚めたら布団から出る
朝目が覚めたら布団から出て身体を起こしましょう。起床後にダラダラ過ごすと活動が夜にずれ込むだけでなく、熟睡感が得られなくなります。
日中どうしても眠くなったら、30分前後の仮眠がおすすめです。

・身体や脳に適度な刺激を
身体と脳は連動しています。ウオーキングや体操などの有酸素運動や趣味活動、社会活動を行い、負担にならない程度に外部刺激を取り入れましょう。
日中は本人が楽しめる役割や予定をつくるのがおすすめです。

・太陽の光を浴びる
できれば午前中に太陽の光をたっぷり浴びましょう。体内時計を調整するだけでなく、活動量も増加します。
外出が難しければ、まずは日光浴から始めてみてください。

・心地よい就寝環境を整える
就寝時は刺激を少なくし、部屋の明るさや音、室温・湿度、寝具など、本人がリラックスできる環境を整えましょう。暗闇が苦手な場合は間接照明も効果的です。
寝ようと思うと緊張して余計眠れなくなるため、夕方以降は入眠に向けてできるだけ穏やかに過ごしましょう。
排尿障害がある場合は、入眠前に排泄を済ませておくと安心です。

・食生活や嗜好品に注意する
三食のバランス良い食事は朝昼晩の流れを意識でき、生活習慣病予防にも効果的です。
良眠を妨げる飲酒や喫煙、カフェインは避けましょう。嗜好品に頼らない入眠方法を見つけることが大切です。

・痛みや不快感をコントロールする
高齢者は腰痛や膝痛など、加齢による身体の痛みを感じやすくなります。
また認知症以外の持病があれば、それに伴う不快感や痛みをコントロールしながら睡眠を確保する必要があります。病院で適切な治療を受け、服薬管理をしっかり行いましょう。
また、内服薬の副作用(睡眠誘発)などで生活リズムが崩れる可能性もあります。医師に相談し、内服薬の量や種類、飲み合わせを調整してもらいましょう。


認知症の人は急な環境変化が苦手なので、本人にとって心地よい行動を習慣化することが大切です。強制せず、本人の気持ちに寄り添いながらできることから始めましょう。

 

認知症による睡眠障害と向き合うには

認知症による睡眠障害は、さまざまな原因により引き起こされます。
そのため睡眠薬により一時的に快方に向かっても、根本の原因が改善しない限り繰り返します。

また、基本的な生活リズムはあれど、睡眠パターンは人によってそれぞれです。今まで慣れ親しんだ生活スタイル(生活リズム)を理解した上で、睡眠障害の原因を観察しましょう。
しかし、生活をともにする家族でも、なぜ症状が起きているかわからないことが多いです。対応に悩んだら、抱え込まずに医師などの専門家に相談してください。

睡眠障害は24時間介護が必要なので、介護者の負担軽減も大切です。デイサービスやショートステイなどの介護サービスを積極的に活用しましょう。
どうしても在宅生活が困難なときは、グループホームなどの施設入所も検討してはいかがでしょうか。

 

まとめ

認知症を患う本人にとっても睡眠障害は大きなストレスであり、それが心身ともにさまざまな症状として現れています。

症状への対応はもちろんですが、まずは根底の生活習慣や生活リズムを整えることが大切です。
日頃から睡眠と覚醒のメリハリをつけ、身体が自然に入眠できるよう適度な活力や疲労感、充実感を感じられると良いですね。

 

 

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