パーキンソン病患者との接し方・コミュニケーションとは?
全国のパーキンソン病患者は28万人を超え、年々増加しています。近年はより身近な病気として知られるようになりました。
パーキンソン病患者と関わるとき、わたしたちにはどのような心がけや支援が必要なのでしょうか。
今回は、パーキンソン病患者との接し方やコミュニケーションのコツを解説します。
パーキンソン病とは
パーキンソン病とは、脳の黒質と呼ばれる部位にある神経細胞の変性により、徐々に運動機能が低下する病気です。身体を動かすために必要なドパミンが減少し、筋肉のふるえやこわばりなどの症状を引き起こします。
変性が生じる原因は不明で治療法も確立されていないことから、2015年に国の指定難病に登録されました。
好発年齢は50〜65歳で、加齢に伴い患者数は増加傾向にあります。
40歳以下での発症は若年性パーキンソン病と呼ばれており、中には遺伝的要因も確認されています。
パーキンソン病患者とコミュニケーション
パーキンソン病は進行性の病気であり、経過とともにさまざまな症状が現れます。「いつもと違う」「思い通りにならない」…そんなもどかしさから自信を失い、家族など身近な人に対しても塞ぎ込むようになります。
なにより、いままで当たり前だったコミュニケーションができなくなるストレスや不安は計り知れません。
障がいがあっても自尊心を保ちQOL(自分らしく自立した生活)を高めるためには、自分の意思を伝え続けることが大切です。
周囲のサポートを得ながら、できる限りコミュニケーションの機会を持ちましょう。
パーキンソン病が引き起こすコミュニケーション障害
パーキンソン病には、主に「静止時振戦(ふるえ)」「筋剛強(こわばり)」「動作緩慢」「姿勢反射障害」の4つの症状があります。
これらの運動障害に伴い「言語障害」「表情筋の低下」といったコミュニケーション障害も現れます。
◼️言語障害
パーキンソン病では、筋剛強により喉や口周りの筋肉が動かしにくくなります。また前傾姿勢が続くと胸(肺)を十分に開けず、言葉に力を込めるのも難しくなるでしょう。
言語障害は発症初期から現れることが多く、主に以下の症状がみられます。
・構音障害(発声しにくい、声がこもる、呂律が回らない など) ・声が小さく弱い、かすれる ・話し始めの第一声がはっきり出ない |
さらに嚥下障害を併発すると飲み込めない唾液が口に溜まり、発語に支障が出ます。
やり取りの中で単調な印象を与えてしまうのは、これらの症状により声のトーンや抑揚が少なくなるためです。
◼️表情筋の低下
筋剛強は顔の筋肉にも影響します。
・眉や口角、頬、まぶたの動きなどが制限される ・眼球運動の減少(ただ一点を見つめているようにみえる) |
このような症状が原因で、表情が乏しく感じられます。
患者本人にそんなつもりはなくても、うまく感情が表現できないために「興味がない」「楽しくない」と誤解されてしまうことも多いです。
また病気による気分の落ち込みが、さらに表情の豊かさを奪っているともいわれています。
パーキンソン病患者との接し方やコミュニケーションのコツ
パーキンソン病患者とのコミュニケーションでは、表情やジェスチャーを含めた小さな動きや変化を取りこぼさないよう丁寧に接しましょう。
◼️パーキンソン病では感情や理解力は保たれることが多い
パーキンソン病では、病気により感情が失われることはありません。
また認知症などの精神疾患がなければ、多くの場合理解力は保たれています。言語障害があっても、相手の話を聞いたり文章やイラストを理解することはできます。
患者の症状や経過をよく見極め、一人ひとりに合った適切なコミュニケーションを選びましょう。
◼️パーキンソン病患者との接し方やコミュニケーションのコツ
ここからは、パーキンソン病患者との接し方やコミュニケーションについて4つのコツを紹介します。
①共感とわかりやすさ
共感とは、相手が “自分の気持ちを受け止めてもらえた” と感じられることです。患者にとって不安を感じやすいコミュニケーションの場では、共感の姿勢がとても大切です。
話すときは目線を合わせ、お互いの顔がよく見えるようにしましょう。患者が伝えた内容に対して「〇〇なのですね」と反復することも安心感につながります。
また、質問は一問一答を意識し端的に伝えましょう。場合によっては「はい」「いいえ」で答えられるオープンクエスチョンを交えたり、写真やイラストを使うなどの工夫も大切です。
②非言語コミュニケーション
非言語コミュニケーションによる情報は、全体の約90%を占めるといわれています。つい言語を重要視しがちですが、実はその人の雰囲気や表情などがコミュニケーションの土台になっているのです。
特に言語障害が現れるパーキンソン病では、非言語コミュニケーションが欠かせません。声だけでなく表情やジェスチャー、あいづちなど患者全体を見て気持ちをくみ取ることを心がけましょう。
③環境(時間・場所・体調)を整える
患者が落ち着いて話すためには、環境づくりも大切な要素です。
ここでは主に「時間」「場所」「体調」の3つにわけて解説します。
・時間
コミュニケーションを取るときは、なるべく忙しい時間帯を避けましょう。時間のゆとりは心のゆとりにつながります。
パーキンソン病患者にとっては「沈黙」も必要な時間です。やり取りに時間がかかっても急かしたりせず、患者のペースに合わせましょう。
・場所
できるだけ騒音などの余計な情報が入らない、静かで落ち着ける場所を選びましょう。
集中できない、または周りの目が気になるようなら個室(自室)もおすすめです。
・体調
パーキンソン病は疲れやすく、1日の中でも薬の効きに波があったり抑うつなどの症状が現れやすいです。こまめに休憩する、薬が効く時間帯を選ぶなど体調にも配慮しましょう。
また、身体を起こす場合は安楽な姿勢を整えます。必要に応じてクッションやテーブル、背もたれなどで体幹を保持し、リラックスできるようにしましょう。
④コミュニケーションツールの活用
発語が難しければ、メモ(筆談)を使うのもひとつの方法です。
ふるえなどで文字が書きにくい場合は、コミュニケーションボード(文字盤)や電子機器(キーボードやタブレットなど)の意思伝達装置を活用しましょう。複雑な操作は不要で、指や目の動きで直感的に伝えられるのが特徴です。
ただしコミュニケーションツールに抵抗感を抱く人もいます。病状だけで判断せず、患者の想いを尊重しながら取り入れることが大切です。
パーキンソン病患者の意欲や力を引き出す支援が大切
パーキンソン病患者とのコミュニケーションは、上手にやり取りすることが目的ではありません。
できないところを責められたり受け身になり過ぎると、患者の意欲は低下してしまいます。困りごとや不安を受け止め、いつでも感情を表出できるように支援しましょう。
また言語聴覚士のリハビリにより、患者の力を引き出す働きかけも大切です。
少しずつコミュニケーションのコツを掴めるようになれば、大きな自信につながります。
まとめ
パーキンソン病の症状は、ゆっくりでありながらも進行しています。その変化に誰よりも患者本人が戸惑い、不安を抱えながら過ごしています。
たとえコミュニケーションに支障があっても、なにかを伝えたり共有したいという想いは変わりません。
支援者は、病気を理解し一人ひとりの奥深くにある気持ちを受け止めることが大切です。寄り添い共感する気持ちは、きっと多くの患者の支えになるでしょう。